午後５時半過ぎ、最終列車がブルフハウゼン駅に到着してこの日の運転がすべて終了した。

老駅長の大真面目なパフォーマンス

　フィルゼンの住宅街にフィルゼンオルトという駅がある。表通りからまったく見えない民家の庭先のような場所にホームがあって、煉瓦造りの堂々とした駅舎もある。
　列車が止まっても乗降客などあるはずがないが、クラシックな制服の老駅長が荷車を押して現れた。大きなバスケットを一つ受け取るとそれを駅舎まで運んでいった。
　荷物は片手で持てるほど軽く、明らかに空っぽである。この老駅長はもちろんボランティアだろうが、果たして乗客の何人がこの大げさなパフォーマンスに気づいたのか。日本から来た一人が気づけばそれで十分だったのか。

　この老駅長、こっちを向くこともなく黙々と空っぽのバスケットを荷物置場に運び入れると、そのまま奥の部屋へ消えていった。あるいはここの住人かもしれないが、真面目くさった仕草の一部始終を見ているだけで思わず吹き出しそうになった。